Kirablog

食べて恋して生きて。

シャインマスカット

周りの人が言った。「あの人が好きとかありえない。」「見る目ないね。」怒りよりも嬉しさが勝った。なぜなら彼を独り占め出来るからだ。私は酷い女だ。

 

 

あれは今から約10年前、貴方を見た時の第一印象は、「大人しそう」だった。正直タイプではなかった。だが、その無口な性格と、何か闇を抱えていそうな眼差しにいつの間にか惹かれていった。貴方を手に入れたい。これは私が貴方に恋する物語。

 

 

彼に何度か会いに行った。少しでも私の事を見てもらおうと必死に努力した。10年前私は12歳。まだ子供だ。真っ黒な肌をして、放課は男の子とドッジボールで遊び、休日は父と兄と野球を見に行く事が好きだった。母と祖母の化粧品を勝手に使い、ソファに置いてあった雑誌を開き、知らない女性を見ながらメイクをした。目にキラキラのアイシャドウ、赤いリップ。うん、悪くない。この日私は初めて女の子になった。

 

 

貴方は罪だ。私のことを見てくれたと思いきやすぐに違う女性を見ている。だったら笑顔でこっち見ないでよ。辛い思いをするのなら、いっその事諦めて違う男の所に行こう。私をきちんと見てくれる人に愛してもらおう。その方がきっと幸せだよね。私は貴方を忘れた。違う男と愛を育んだ。違う男は私に沢山の愛をくれた。でもね、私は愛せなかった。違う男といても貴方が頭から離れない。どれだけ貴方を忘れようとしても無理なんだ。貴方が振り向いてくれない事より貴方を忘れる事の方がよっぽど辛い。

どんどん好きになっていく。顔も声も仕草も癖も眉毛にあるホクロも全てが愛おしい。どこの女よりも私が一番貴方を想っている。だからこっち見てよ。頭が可笑しくなるくらい好きで好きでどうしようもできないんだよ。

 

 

突然貴方が消えた。私は泣いた。怖かった。もう二度と貴方に会えないんじゃないかって。何もかもどうでも良くなった。ついこの間まであんなに楽しそうだったのに。私は貴方が抱えている事、悩んでいる事に少しも気づいてあげられなかった。寄り添おうとしなかった。自分の気持ちばかり押し付けて、貴方が流していた涙の意味を知ろうともしなかった。最低だ。

 

 

私が今出来ること、それは今いる環境で今を一生懸命生きること。なぜなら世界中のどこかで貴方が必死に生きようと頑張っているから。そして、貴方の健康を願うこと。貴方が居なくなって気付いた。貴方がいることは決して当たり前ではないこと。どうか貴方が健康で幸せに生きていますように。

 

 

あれから2年。貴方が突然現れた。私は泣いた。キリッとした顔立ちに優しそうな目。面影はあるが明らかに大人になっていた。時が止まっていた私の世界がようやく周り始めた。

やはり貴方は罪だ。第何条か分からない罪で現行犯逮捕。その笑顔で何人もの女を落としてきたんでしょ。その優しい笑顔とキャラメルみたいな声と真っ白な肌。サラサラな髪とガニ股。全て独り占めしたい。

 

 

久々に貴方に会った。暗かったけれど私を見てくれた。ねえ、私の事どう思っている?口が裂けても言えない。私は臆病だ。

人々は言う。同じ世界に生きているだけで幸せ。それはただの綺麗事。そうやって言いながら本当は自分のモノにしたいんでしょ。でもね、世界の人口が何人いるか分からないけど、その中のたった一人の貴方に出会えて私は世界一幸せだと思う。断言出来ないのは、世界中の男全員にまだ出会っていないから。でも世界中の男全員に出会ったとしてもきっと貴方が一番だよ。

 

 

好き。大好き。愛してる。その上があるのならその言葉を創り出すのは私と貴方。これは私が貴方に恋する物語。